おい、そこの若造、ちょっとこっちへ来い。少し話でもしようじゃないか。
いくつだ? 21か。 若いな。 何の苦労もしていないツラしてやがる。
俺、誰だと思う。41年後のお前だよ。
そんなに驚くなよ、人間、だれだって年をとりゃ老け込むんだから。
それよりお前、気になるだろう? 自分の人生がどのようなものになっていくかを。
ほんの少しだけ、教えてやろう。
おまえは卒業後、そこそこ名の知れた会社に入り、希望通り海外勤務を経験する。
結婚するし子供もできる、まあまあ普通の暮らしと言えるだろう。
でも油断するな、災難も多いんだ。
交通事故、落下事故、荷崩れ事故、そして火事。
ありとあらゆる苦難に出会う。それも一歩間違えば命を落とすようなものばかりだ。
悲観するなよ、人間だれだって思いがけないことに出くわすものだ。
運命だと思って乗り切るんだ。
30代中ごろに大学時代の友人が突然の死を迎え、お前は祭壇で泣き崩れる。
また、お前を大切に育ててくれた両親も、やがてこの世を去る日が来る。悲しいだろうが耐えるんだ。いいな。
この3人の死で、お前の人生観は大きく変わってゆく。
どうせ最後は灰になるだけ、だったら生きているうちにやりたいことをやろうじゃないかと。
そして50を超えたある日、お前は常軌を逸した行動に走るんだ。
幼いころ、姉にもらった古い英和辞典で勉強を始め、英語バカになったおまえ。その本性が再び顔を出し、個人英語塾を開業するのさ。
こんな人生を知ったら、オマエ失望するだろうな。自殺したくなるかもな。 でも、ファンが結構できたんだぜ。
「あなたの教え方にはサラリーマン時代の苦労が肥やしになっている」と言ってくれる高齢の生徒。「せんせい見て、5級うかったよ」と叫びながら駆け寄ってくる小学生の生徒。
この感触、21のお前にはわかるまいが、今のおれはとっても満足だ。
そんなに悪くないぜ、お前の人生。 だから、自信を持って達者に暮らせ。
じゃあな。
21のオレヘ
59のお前より