ところで遠藤周作さん、私が一番感動した作品、なんだと思われます? 実は「金と銀」なんです。 ほら、東京の安アパートで暮らす3人の若者の物語ですよ。とっても面白くて、一晩で読んでしまいました。読み終えて時計を見ると午前2時。翌朝起きられなくておふくろに怒鳴られたっけ・・・
うろ覚えですけどストーリーはこんな感じでしたね。
定職を持たず、バイト暮らしの3人。安酒をかっくらいながら自由気ままな暮らしをしていた。そんな生活に疑問を持ち始めた1人がある日切り出す。
「おい、おれたちいつまでもこんな暮らし続けてちゃいけないと思うんだ。」
「なんだよ急に」
「いや、おれたちいつまでも若いわけじゃないだろ。」
「まあ、そうだよな」
「どうだ、いっそのことこの部屋を出てばらばらに暮らそう。それぞれの人生見つめなおそう」
「もう会わないのか、おれたち?」
「いや、まて。こうしよう。一年間は互いに会わず、連絡も取らないでおこう。そして来年の今日、東京タワーの下に集まろう。誰が一番金持ちになっているか、競争しようじゃないか」
「おもしれえ、やろうやろう。」
「まあ、なんだな。一番の金持になるのはきっと俺様さ。ベンツに金髪ギャルを載せてやってくるぜ。」
「なあに言ってるんだ。お前なんかせいぜいリヤカーだろうが。」
「なんだとお、てめえ。」
じゃれあいながら笑う3人。そして翌朝、住み慣れたアパートを引き払うのだった。
しばらく無言で歩く3人。やがて交差点に立ち止まる。
「ここで別れよう。俺はまっすぐ行く。お前は右を行け、お前は左だ。いいか忘れんなよ。来年の今日、東京タワーの下だからな」 「おう」 「じゃあな」
3方向に分かれて歩く若者たち。この時選んだ道がその後の人生を大きく左右することを、彼らはまだ知らなかった・・・
下手なあらすじですねえ。お怒りにならないでください遠藤さん。
私はいつも思うのです。あの日3人がわかれた交差点のことを。もし別の道を歩いていたら、その後の人生がどうなっていただろうかを。
いま仕事がらたくさんの小中高生に英語を教えています。勉強に身が入らない時、よくこの小説のおはなしをするんですよ。3人が交差点で別れる場面で私は話をやめることにしています。
するとたいていの子供は聞きいてきます。「ねえ、その後3人はどうなるの」と。
私は意地悪く答えます。「知りたいか? じゃあ勉強に戻ろう」と。