久しぶりに読書した。

国語の教科書に必ず出ていた宮沢賢治。子供だった私には「へんなおじさん」というイメージしか持てませんでした。「みんなにでくの坊と呼ばれ、ほめられもせず、苦にもされず、そういうものに私はなりたいだあ? こんなセリフを言う人、どう考えたっておかしいよ。」こんな薄っぺらい感想しか持てませんでした。

いつしか大人になって、息子の教科書に「雨ニモ負ケズ」が載っているのを見つけ、再読。するとなんだかじわっと来るような、うるっとするような感触に襲われたのを覚えています。社会でもまれたり、傷ついたりした分理解度が深まったのでしょうかね・・・

 

今回読んだ「銀河鉄道の父」はそんな宮沢賢治の生涯を父親である政次郎の目線で描写したものです。

 

父と息子の仲なんて大体はうまくいかないもの。宮沢親子も例外ではなかったよう。進学のこと、就職のこと、宗教観、人生観、ありとあらゆることでぶつかり合います。

 

僕も若いころよく親父とぶつかったなあ、高校受験に失敗したときはプチ家出もしたよな。 将来結婚して子供ができたら、絶対おやじの様にはならないぞ。きっと子供の側に立ってよき理解者になるんだ。なんて固く心に誓ったのに、結局は息子にとって「うざい親父」になってしまいました。

 

文学だけでなく、鉱物学や農業、宗教、音楽、いろんなジャンルに才能を発揮していた賢治さん。 学校教師をしていた時のエピソードとして、白地図を使った授業をし、生徒たちに五感で知識を得させ、体にしみこませることに専念していたと言われています。このことは全く知りませんでした。なんだか塾講師の私に賢治さんがアドバイスしてくれた気さえします。 さっそく明日からの授業に取り入れてみよう、などと考えながら最後のページを読み終えました。

 

 

 

 

 

金と銀 遠藤周作

ところで遠藤周作さん、私が一番感動した作品、なんだと思われます? 実は「金と銀」なんです。 ほら、東京の安アパートで暮らす3人の若者の物語ですよ。とっても面白くて、一晩で読んでしまいました。読み終えて時計を見ると午前2時。翌朝起きられなくておふくろに怒鳴られたっけ・・・

うろ覚えですけどストーリーはこんな感じでしたね。

定職を持たず、バイト暮らしの3人。安酒をかっくらいながら自由気ままな暮らしをしていた。そんな生活に疑問を持ち始めた1人がある日切り出す。

「おい、おれたちいつまでもこんな暮らし続けてちゃいけないと思うんだ。」

「なんだよ急に」

「いや、おれたちいつまでも若いわけじゃないだろ。」

「まあ、そうだよな」

「どうだ、いっそのことこの部屋を出てばらばらに暮らそう。それぞれの人生見つめなおそう」

「もう会わないのか、おれたち?」

「いや、まて。こうしよう。一年間は互いに会わず、連絡も取らないでおこう。そして来年の今日、東京タワーの下に集まろう。誰が一番金持ちになっているか、競争しようじゃないか」

「おもしれえ、やろうやろう。」

「まあ、なんだな。一番の金持になるのはきっと俺様さ。ベンツに金髪ギャルを載せてやってくるぜ。」

「なあに言ってるんだ。お前なんかせいぜいリヤカーだろうが。」

「なんだとお、てめえ。」

じゃれあいながら笑う3人。そして翌朝、住み慣れたアパートを引き払うのだった。

しばらく無言で歩く3人。やがて交差点に立ち止まる。

「ここで別れよう。俺はまっすぐ行く。お前は右を行け、お前は左だ。いいか忘れんなよ。来年の今日、東京タワーの下だからな」 「おう」 「じゃあな」

3方向に分かれて歩く若者たち。この時選んだ道がその後の人生を大きく左右することを、彼らはまだ知らなかった・・・

 

下手なあらすじですねえ。お怒りにならないでください遠藤さん。

私はいつも思うのです。あの日3人がわかれた交差点のことを。もし別の道を歩いていたら、その後の人生がどうなっていただろうかを。

いま仕事がらたくさんの小中高生に英語を教えています。勉強に身が入らない時、よくこの小説のおはなしをするんですよ。3人が交差点で別れる場面で私は話をやめることにしています。

するとたいていの子供は聞きいてきます。「ねえ、その後3人はどうなるの」と。

私は意地悪く答えます。「知りたいか? じゃあ勉強に戻ろう」と。

 

 

泥流地帯 三浦綾子

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1926年に噴火した十勝岳。多くの泥流が流れ、富良野や美瑛でたくさんの犠牲者が出ました。この作品はその時の様子が描かれています。噴火前と噴火後で生活やものの考え方などがガラリとかわるさまを読み取ることができて興味深いです。当時、正月には相撲大会が開かれていたこと、貧しい家の娘さんが旭川の遊郭に身売りされていたこと、噴火時吹上温泉でお湯につかっていた人たちは全員無事だったこと、・・・数々の歴史的事実に驚かされるばかり。三浦綾子さん、執筆に取り掛かる前に膨大な資料をそろえて目にしたのでしょうね。インターネットの無い時代に・・・

亡くなった妹さんを兄が自分の手で荼毘にふす場面は心が痛みました。

 

 

敗戦日記  高見順

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軍部により厳しい言論統制が敷かれていた昭和20年、破局へと進む日本の悲劇を率直に書き綴った日記です。 当時の生活を知ることができて面白いです。 一番驚いたのは、「ネクタイは敵国のものだから、身に着けるのをやめよう。そのかわり下駄のはなおをつけましょう」という立て看板が街に建てられていたという記述。本気でそのようなことを国民に訴えかけていたなんて、信じられないです。

 

 

ユーモア小説集Ⅲ 遠藤周作

若いころ夢中になって読んだ遠藤周作さん、お久しぶりです。出会えてうれしいです。

「巨泉のクイズダービー」でいつもおかしな質問を繰り返すおじさん。これが私のあなたに対する印象でした。ネスカフェのコマーシャルに出ていたのも覚えています。

活字嫌いだった私はあなたのおかげで本好きになりました。ユーモア小説集、バスや電車の中で読んで笑ってしまい、周囲の人たちに白い目で見られたのも今では懐かしい思い出です。

 

 

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